25 小特集 変わる学生,変わる大学 大学生の就活事情 皆さんは,小津安二郎監督の映 画『大学は出たけれど』をご存知 ですか? 大卒者の就職難を描い た昭和初期の作品で,定職に就く ことができずに苦労する若者たち のメタファーにもなっています。 しかし,この頃とは違って平成の 世は,「大学を出たけれども……」 とならないように在学中から面倒 をみる時代になりました。多くの 大学では,かつての就職課がキャ リア・センターやキャリア支援課 に名称を改めて,学生のキャリア を全面的にバックアップするとの 姿勢を打ち出しています。不思議 なことに,部署の名前は「キャリ ア○○」に変わったのですが,学 生が行っているのは依然として就 職活動すなわち「就シュウカツ活」で,主た るサポートも内定に漕ぎ着けるた めの支援というのが実情です。 変わった点といえば,就活が高 度情報化,複雑化,ハイテク化し たことでしょうか。そのわりに説 明会や面接は昔と変わらず対面 形式で行われており,就活のハイ シーズンになると学生がキャンパ スから姿を消すという現象は,筆 者が大学生だった90年代から変わ りません。学生たちが相当の時間 と労力を費やす就活ですが,授業 や研究とは異なる次元で展開され るため,彼らがどんなふうに奮闘 しているのか,教員にはリアルな 情報が伝わりにくいのではないで しょうか。そんな学生たちの就活 事情についてみていきましょう。 「職業を選ぶ」という営み 時代によって様変わりしていく 就活ですが,それが職業を選択す るという営みで,自己理解と仕事 理解を行って双方を関連づけると いう仕組みは,職業指導の創生期 から変わりません。ただ,自己理 解をするときに従来の学生は試行 錯誤を繰り返しながら「自分とは 何者か?」という問いに取り組ん できました。それが今では,自己 分析セミナーや自己探索ツールを 活用して手軽に自分を見つけら れる(見つけたような気になれ る)時代です。筆者も心理学を用 いた自己理解ツールを活用してお り,これに助けられて学生たちが 自分探しに取り組み出すことを実 感しています。しかし,試行錯誤 や実体験をともなわない紙の上の 自己理解では,書類審査はパスで きても面接を通過するのは難しい でしょう。もし,それらをすり抜 けて就職できたとしても,「さし て悩むことなく内定したのでラッ キーだったけれど,未だに自分の 適性が分からない」という卒業 生もいます。これは,できるだ け「無駄」を省いて躓かないよう に学生たちを世に送り出そうとい う,機能的で面倒見の良い出口支 援の弊害といえそうです。 職業選択のもうひとつの要素は 仕事や社会を知ることで,就活用 語を用いるならば業界研究や企業 研究がこれにあたります。もとも と学生たちは情報誌や業界本,企 業のパンフレット,大学に寄せら れた求人票といった紙媒体から情 報を仕入れていました。それが今 ではインターネットでこと足りま すし,就職情報サイトに登録すれ ば業界横断的な情報がどんどん 入ってきます。大学の就職課でめ くっていた求人票もデータベース 化されて何処からでも閲覧できる ようになりました。つまり学生は パソコンの画面をクリックするだ けで,膨大な情報にアクセスする ことが可能になったのです。その ため就活では,溢れんばかりの情 報をどうやって整理するのか,ど の部分を選択して活用するのか, SNSをどのように役立てるか等の 情報リテラシーが重要な役割を果 たします。 くわえて就活では,他者との関 係性を活用して仕事社会と繋がる ことが鍵になります(安達, 2010; 下 村, 2013)。 例 え ばOBやOG, 就職活動を通して得た仲間,説明 会やインターンシップで出会った 企業の関係者,あるいは昔の友人 や遠い親戚,恩師などとの繋がり
大学におけるキャリア支援
大阪教育大学教育学部 准教授安達智子
(あだち ともこ) Profile─安達智子 早稲田大学教育学部卒業。青山学院大学大学院文学研究科修了。早稲田大学大学院教育学研究科博士後期課程 単位取得退学。博士(教育学)。大阪教育大学講師を経て現職。産業カウンセラー。専門はキャリア教育・支援, ジェンダー,就活の心理。著書は『キャリア・コンストラクション・ワークブック:不確かな時代を生き抜くため のキャリア心理学』(共編著,金子書房)など。26 していけるでしょう。 おわりに 大学においてキャリア教育が拡 充される動きのなかで,「キャリ アは専門じゃないんだけど,何を したらよいかな?」と,心理学の 先生方から質問をいただく機会が 増えました。そんな時のお応えが 検査の活用に対する助言です。大 抵の学生は,就活開始時に適性診 断や適職診断の検査を受けます が,このときに得られた結果の解 釈や活かし方には,心理学を体系 的に学んだ学生とそうではない者 の間に明らかな違いがあります。 例えば,テストバッテリーの考え 方,テスト理論,人と環境の相互 作用,そして人間の心の可塑性を 知ることで,学生は自動的にはじ き出された診断結果に振り回され ることなく,効用や限界を踏まえ ながら就活に役立てることができ ます。くわえて,安易な検査の実 施や結果スコアの一人歩きに対し て警鐘を鳴らすこと,さらには人 の心を理解するという営みについ て学生だけでなく社会の考え方を 熟成させていくことも心理学者の 大切な役割といえるでしょう。 文 献 安達智子(2010)キャリア探索尺度 の再検討.『心理学研究』 81 , 132-139. 下村英雄(2013)「就活は孤独じゃ ない:ソーシャル・サポート」安 達智子・下村英雄(編著)『キャ リア・コンストラクション・ワー クブック:不確かな時代を生き抜 くためのキャリア心理学』金子書 房 pp.77-85. Adachi, T.(2016)Work-Family P l a n n i n g a n d G e n d e r R o l e Attitudes among Youth. in press. です。こうした人々との関係性は 日々の人間関係とは異なり,構築 することや維持・発展させること が難しいのですが,就活において は有益なチャンスをもたらしま す。就職するには,コミュニケー ション能力すなわち「コミュ力」 が大切なことはよく知られていま すが,面接で自己PRをしたりグ ループディスカッションで積極的 に発言をするという直接的なコ ミュ力だけでなく,人との関係性 を構築・維持・発展させるネット ワーキングのコミュ力も見逃せま せん。また,そのネットワークに 我々教員も含まれており,彼らの 就職や仕事生活,転職,困った時 など,様々な場面において機能す ることが期待されています。 大学教育,そして心理学は何が できるか 大学におけるキャリア支援のも うひとつの柱がキャリア教育で す。内定獲得に特化した就職支援 とは異なり,キャリア教育では働 きはじめた後の生活,例えばワー ク・ライフ・バランスや仕事とラ イフイベントの兼ね合い等が扱わ れています。それによって学生の 視野も随分と広がったように感じ ます。例えば学生たちを相手に 調べてみたところ,「男女共同参 画」「イクメン」「カエル! ジャ パン」といった政府主導の動きに ついて,彼らはよく知っていまし た。また,仕事と家事・育児の分 担についても,昔に比べて随分と 柔軟な捉え方をしています。とこ ろが,自分自身の将来はとなる とどうでしょう? 図1は,学生 たちが30歳代の自分を想像して 割り振った時間配分です。結果は 見ての通り,女子学生は男子学生 の2倍近くを家事や子育てに費や し,男子は女子の倍近くを仕事に 費やすという意外に伝統的なもの でした(Adachi, in press)。 理由のひとつに考えられるの が,彼らは政府の動きをよく認識 しているのと同時に,それがまだ 旗振りにすぎず,非典型的な生き 方をするのがいかに難しいかもよ く知っているということです。そ のため,自分の将来を予測してみ ると伝統的なパターンに収束して いくのかもしれません。そうだと すれば,大学のキャリア教育では 政府の動向や様々な生き方・働き 方を紹介するだけでなく,社会 的インフラを活用したり組織と win-winの関係を築いたり,権利 を主張する力を養うことが求めら れます。つまりは,社会を知るだ けでなく社会と交渉する力です。 心理学の立場からは,アサーショ ン,コーピング,コミュニケー ション等の研究成果を用いて彼ら の仕事社会への移行と適応を支援 図 1 30 代になったときの時間の使い方(Adachi, 2016)。 アイコン画像は ICOOON-MONO より入手。http://icooon-mono.com/